IT技術の進歩や働き方改革などにより、現代の労働市場は大きな変化のときを迎えています。同時に、働き方の多様化から「社会人の学び直し」が注目されています。
「社会人の学び直し」とあわせて注目されているのが「リカレント教育」です。
リカレント教育は就労・転職でのキャリアアップの意味を含み、政府が掲げる「人生100年時代」における再チャレンジの手段として文部科学省と厚生労働省を中心に国を挙げて推進されています。
本コラムでは、リカレント教育の意義と目的、注目されるようになった理由と背景について解説します。
リカレント教育とは
リカレント教育とは、義務教育を修了した人が生涯にわたって教育と就労を交互に繰り返す教育制度あるいは教育システムのことです。
リカレント(recurrent)は「反復、再発」を意味し、「リカレント教育」は「回帰教育」「循環教育」とも訳され、「学び直し」と称されることもあります。
リカレント教育の本来の定義は、職業上必要な知識や技術を修得するために、フルタイムの教育とフルタイムの就労を繰り返すことであり、その理念はいわゆる学校教育を一人ひとりの人生のなかで分散させることにあります。
ただし日本においては、文部科学省も指摘する通り、長期雇用の慣行があることから諸外国よりも広義に解釈され、社会人がキャリアアップや心の豊かさ、生きがいのために働きながら学ぶ「生涯教育」や、学生が大学や専門学校などの教育機関以外の場で学ぶことを含むものとされています。
【参考資料】
「文部科学省におけるリカレント教育の取組について」(文部科学省、令和2年4月)
リカレント教育の目的
リカレント教育の目的はあくまでもその人の仕事(キャリアアップや転職を含む)に活かせる知識や技術を身に付けることであり、より豊かな人生を送ることを目的とする「生涯教育」とは本来は区別されるものです。
現在の日本では、今後も続くであろう少子高齢化とそれに伴う労働力人口の減少が懸念されています。同時に、健康寿命が延びて100歳まで生きることが珍しくなくなる「人生100年時代」の到来が予測されています。
しかしOECD(経済協力開発機構)が2012年に実施した「国際成人力調査」によると、日本の「30歳以上の成人の通学率」は1.6%で、調査対象となったOECD加盟国等24ヵ国中で最低となり、日本のリカレント教育が遅れていることを示唆しています。
このような状況に対して政府は2017年より「人生100年時代構想会議」を開催し、『すべての人に教育機会を確保し、何歳になっても学び直しができるリカレント教育』について議論を重ねています。
この会議の目指すところは、リカレント教育によって「いつでも学び直し・やり直しができる社会」の実現です。おもな対象となるのは、経済的な事情で高校や大学に進学できなかった人、定年退職した人、出産・育児のために離職した女性などです。
政府は職業教育の充実に取り組む大学や専修学校などへの支援のための予算を増額するなど、具体的措置を講じています。
【参考資料】
国際成人力調査(PIAAC:ピアック)(文部科学省ホームページ)
リカレント教育のメリット
リカレント教育は、生涯教育と違い、仕事で必要とされるスキルの獲得や、向上に役立つ教育であることが特色です。つまりリカレント教育は仕事に直結しています。
そのため、労働者個人・企業双方にとって、次のようなメリットがあることが知られています。
労働者にとってのメリット
給与アップ・キャリアアップが期待できる
スキルが上がり、新しい仕事にチャレンジできることとなれば、給与のアップが可能になります。資格手当の取得が可能になる・上級職員の試験へのチャレンジが可能になる・プロジェクトに参画可能になる、といったはっきりした効果がある場合が考えられます。
新たなスキルで仕事の幅が広がったので昇進・昇給となった、というように、スキルを手がかりにして給与を上げる機会も広がります。
さらに、転職にも有利に使えることもあります。新しいスキルを武器に転職を成功させ、給与アップが図れることもあるでしょう。
働き方を変えることができる
副業がブームになっていますが、たとえば「週末にはリカレント教育で身につけたスキルをもとに別の仕事をする、そのうちこちらを本業にしたい」など、リカレント教育を上手に使うと、キャリアビジョンが広がります。
また、スキルをつけて独立することや、リモートワークへ切り替える、一定期間ノマドワークをするなど、いろいろな働き方にチャレンジをする可能性もリカレント教育で広げることができることでしょう。
リカレント教育により生き方を思い切って変えて、ストレスの大きな生活から抜け出せるケースも考えられます。
定年後も仕事ができるスキルを持てるようになる
リカレント教育により、一つの会社で定年まで勤めた後、より定年の長い会社で働く・業務委託形式で定年後も働く、別の会社や独立するなどして定年以降も働き続けるなど、定年後の生活不安に備えることも可能になるでしょう。
長い定年までの間には、かつて重宝がられたスキルも、陳腐化してしまうことなどもあります。定年後も働けるスキルをあらたに身に着けられる手段がリカレント教育です。
企業にとってのメリット
会社からの教育投資を抑えることができる
リカレント教育を自発的に労働者が受けることになれば、一部の教育投資は必要がなくなるかもしれません。
リカレント教育がより活発になり、会社がすべてを用意しなくて良いということになれば、教育にかかる経費のカットが期待できます。たとえば、助成金・補助金以外は自己負担にするなどの工夫により、なかには教育投資を大きく抑えられる会社も出てくるでしょう。
新しい人材の確保に頼らなくても良いケースが出てくる
社内の誰かが新しいスキルを身に着けることが当たり前になると、スキルを持った人を新しく採用しなくても人材を確保できることも期待できます。
リカレント教育で差別化を図った人をより厚遇すると、後に続く人も出てくることから、社内のスキルのプールを大きくすることも可能になります。
このことは少子高齢化で新しい人材の採用が今後より困難になる中、企業の生き残り策として重要なポイントとなることも考えられます。リカレント教育の奨励およびスキルに合った処遇は今後の企業の大きな課題の一つになりそうです。
従業員のモチベーションを維持・向上することができる
リカレント教育を受けた社員を昇進させる、昇給させると公表すれば、従業員のモチベーションを維持・向上させる効果が期待できます。生産性があまり高いとはいえなかった従業員も、目標ができると変わるかもしれません。
リカレント教育を受けた後に、より高いスキル・よりよい待遇で働けることになると、職員の成長意欲が全体に上がることや離職率の低下なども期待できるでしょう。
リカレント教育が注目される理由
すでに国の重要施策のひとつとなっているリカレント教育ですが、現在では特にどのような点で注目されているのでしょうか。リカレント教育が注目される背景には、近年の日本における次のような状況が考えられます。
1. 雇用の流動化により、個人のキャリアパスにあわせた学習機会が必要に
新卒で入社した会社で定年まで働くという「終身雇用」が主流だった時代とは異なり、現在ではキャリアアップの目的を含めて転職を経験する人が多く、雇用の流動化が加速的に進んでいます。
「終身雇用」においては長期安定雇用を前提に、実務に必要なスキルを社内教育でカバーすることが可能でした。しかし、現在ではひとつの企業での勤続年数が相対的に短くなったことで、社内教育だけで実務に必要な知識やスキルを身に付けることは難しくなっています。
企業主体の教育に頼れないとなると、労働者の一人ひとりが自らのキャリアパスに沿って教育を受ける機会を持つことが必要になります。そこでリカレント教育が注目されるようになったのです。
2. 「人生100年時代」ですべての人に期待される活躍とキャリアアップ
世界一といわれる日本の平均寿命はさらに上昇し、「人生100年時代」を本格的に迎えようとしています。いわゆる「定年」退職後も働く人が増え、性別を問わず、若者から高齢者までが総活躍し、文字通り生涯現役で働くことが主流となるでしょう。
定年退職後の人が再雇用や再就職を、出産・育児のために離職した女性が復帰やキャリアアップを、若年層や中年層が非正規雇用から正社員雇用を目指すケースがこれまで以上に増えることが予想されます。
そうした一人ひとりがブランクやスキル不足を解消して活躍するためには、つねに新たな知識や技術を身に付けていくことが必要になります。そこでリカレント教育が注目されるようになり、厚生労働省は労働者のためのリカレント教育の機会拡充に取り組んでいます。
【参考資料】
雇用・労働 人材開発(厚生労働省ホームページ)
3. AIやIoTなど急速な技術革新に伴う新たなスキル・技術習得の必要性
AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)※の登場で近年の技術革新は急激に進み、市場の変化とともに、求められる人材が変化しています。
これまで通りのやり方やスキルが通用しなくなり、知識とスキルの習得とアップデートがつねに求められる時代になりました。
社会人が働きながら必要に応じて柔軟に教育を受け、実務に必要な知識や技術を身に付けるための手段としてリカレント教育が注目されています。
※「モノのインターネット」。バーチャルでなく現実世界に存在する物理的なモノのうちPC類以外のモノ(家屋のドアや家電、工場の機械など)に通信機能を持たせ、インターネットに接続・連携させること。離れた場所にあるモノの状態をセンサーと「モノのつぶやき」で知ることができ、介護や見守り・動植物の育成など幅広い分野への応用が期待されている。
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また、社内での教育を充実させることで新しいスキルを身につける環境を整えることも社員のモチベーションを維持・向上させるには有効な手段です。
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まとめ
北欧を中心とした諸外国では、リカレント教育を受ける人の教育資金や有給休暇の取得において国がバックアップをするなど制度的にも進んでいると言われます。
リカレント教育は、日本では雇用政策や生涯教育政策とからんで重要施策のひとつとされているものの、リカレント教育という言葉自体の認知度もさほど高くありません。
また、実際にリカレント教育を受けたい人や興味のある人は、まずは勤務先の理解を得ないとならないという状況が一般的です。制度的な整備がなされていないのが日本のリカレント教育の最大の課題であり、国家的な急務とも言えるでしょう。
リカレント教育については制度的にも内容的にも未開発の部分がありますが、自分自身のニーズや興味にあったものに出会えたときにチャンスを逃さぬよう、アンテナを張っておくことがおすすめです。
まとまった時間を確保しての通学が難しい方は、働きながらでも手軽に始められるeラーニングやオンライン学習などからスタートしてみてはいかがでしょうか。
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