「IT」にコミュニケーションの要素を加えた「ICT」。近年よく聞かれるようになった言葉で、いまや国際的にもITよりICTというワードの方が普及しているのが現状です。
では、ICTとは具体的にどのようなもので、またICT教育とIT教育では何が異なるのでしょうか。ICT教育のメリット・デメリットにも触れながらわかりやすくご紹介します。
そもそもICTとは
ICTは「Information and Communication Technology」の略で、日本語に訳すと「情報通信技術」のことを指します。よく似た言葉に「IT(情報技術)」がありますが、そこにコミュニケーション(通信・伝達)の要素を加えた言葉がICTです。
情報処理などの技術を指すITに対し、ICTはインターネットなどの通信技術を用いた情報・知識の共有に重きを置いた言葉だと言えます。近年では、日本はもちろん国際的にも「IT」ではなく「ICT」と表現することが多く、政府の資料でも「ICT」が多く使われています。
一見、難しい内容のように思えますが、実際にはスマートフォンで同僚と連絡を取る、外出先でノートパソコンやタブレット端末を使用して書類の作成・送付を行うなど、多くの人が無意識にしている行動もICTを活用しているものです。
ICT教育とIT教育の違い
近年は教育現場におけるデジタル化もかなり推進され、少し前から「IT教育」、最近では「ICT教育」という言葉を目にする機会も増えました。では、この両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
IT教育とは
IT教育とは、その名の通りIT(情報技術)を教育に導入することです。「教育のIT化」と言い換えることもできるでしょう。
大人の目線では、学校といえば1クラス約20~40人ほどの生徒が教室に机を並べ、教師が黒板などに板書をし、生徒がノートにそれを書き写すというスタイルを想像する人が多いのではないでしょうか。
そんな昔ながらの教育現場にコンピュータや電子黒板などITを取り入れ、効率化を図るのがIT教育です。ほかにも、プロジェクタの活用やワープロソフトを使った学習用ツールの導入などもIT教育の一環として挙げられます。
ICT教育とは
前述のようにIT機器などを教育現場に導入しても、それをうまく活用できなければ意味がありません。ICT(情報通信技術)を駆使してIT機器を活かしていく取り組みをICT教育といいます。
たとえば、専用ソフトを活用して表・式・グラフなどを関連付けて学ぶ、資料を加工・編集してプレゼンテーションを作成・披露するといった生徒側の学習活動に関する取り組みのほか、成績処理や評価を行うために専用ソフトを活用するなど教職員の業務効率化を図る取り組みも見られます。
ICT教育は文部科学省が公表する「教育の情報化ビジョン」の一つとして位置づけられているなど、今後もより推進されていくことが期待されている分野です。
ICT教育のメリットとデメリット
ICT教育には多大なメリットがある一方で、懸念されているデメリットもあります。ICT教育を取り入れる際には、デメリットに対策しながらメリットをより効果的に発揮させることが重要です。
ここからは、メリット・デメリットをそれぞれ5つご紹介します。
【メリット1】これまでは難しかった内容の実現
ICT機器をうまく活用すると、これまでの授業では実現が難しかった内容を生徒に体験させることができます。たとえば、ビデオ会議ソフトを使えば、学校や家にいながら海外の学校の生徒・教師とお互いの顔を見てやりとりする異文化交流が可能です。
また、図形問題をタブレット端末上で実際に動かしながら考えるなど、映像や音声、Webサイトなどの活用でも授業の幅は広がり、よりわかりやすい説明ができるようになります。
【メリット2】生徒のモチベーションアップ
メリット1でご紹介したようにさまざまな体験ができたり説明がわかりやすくなったりすることで、生徒の興味・関心を集めやすいこともICT教育の大きなメリットです。
また、従来の授業では教師からの一方通行になりがちな場面も多く見られましたが、タブレット端末などを駆使すれば主体的・協同的な授業を行うことができ、これもモチベーションアップにつながります。
さらに、一人ひとりのレベルに応じて出題を変える、特別な支援が必要な子供たちをサポートするといったことも、ICTを活用すれば容易になります。
【メリット3】教職員の作業の時間短縮
扱う対象が紙ではなく電子データになることで、答え合わせや成績管理といった教職員の作業の自動化・半自動化が図れる場合も多くあります。また、インターネットの活用により情報収集の時間も短縮できるなど、ICTを活用することでさまざまな作業の時間短縮につながります。
【メリット4】効率的な学習の実現
単に教科書の文字を読んだり、計算式をノートに書いたりといった作業に比べ、タブレット端末での学習を楽しむ生徒は非常に多く見られます。教師からはもちろん生徒同士のやりとりでも、テキストのみでは伝えづらい内容を画像や動画で伝えられるため、楽しみながら効率的に学習することができるのです。
また、電子黒板の内容をワンタッチで生徒のタブレット端末に共有することなどもできるため、板書を書き写す時間が短縮でき、その時間を表現力・想像力・思考力などを深める学習に当てられるのもメリットです。
【メリット5】教職員間でのスムーズな情報共有
紙の資料と異なり、電子データの資料は共有が非常に簡単です。資料を人数分コピーするといった手間もなく、例えば共有フォルダに保存しておくだけでほかの教職員も閲覧することができるため、クラス間での授業内容の共有なども容易に行えます。
【デメリット1】端末購入費や管理・修理のコスト
ICT教育の導入にはICT機器の購入が伴います。特に、生徒1人ひとりが使用するタブレット端末などは個人購入とされることもあり、その場合は保護者に負担がかかるため理解を得づらいこともあります。
また、個人所有のもの・学校所有のものともに、日常的な管理や故障時の対応にもコストがかかります。費用はもちろん、情報漏洩などに気を配る必要もあり、保護者や教職員の負担増につながらないかと懸念する人も多くいます。
【デメリット2】ICT機器の使用に気をとられての効率悪化
ICT機器に慣れず手間取ったり、「使うこと」を目的としてしまうことで逆に効率が悪化したりする可能性も危惧されています。特に教職員は、事前に機器に慣れておく必要があること、機器はあくまでツールであり目的ではないことなどに留意しましょう。
【デメリット3】生徒の想像力低下の可能性
わからないことをインターネットですぐに調べられるのは魅力ですが、そのことにより自分で考えるという作業がおろそかになる可能性があります。また、インターネットにある情報はすべて正しいものとは限らないため、情報を見極める力も重要です。
得られた情報をしっかりと見極め、組み合わせて新たな価値を創造できるような学び方の工夫が必要だといえるでしょう。
【デメリット4】インターネットによる弊害
インターネットの普及に伴い、長時間利用による生活習慣の乱れや有害サイトを通じた犯罪など、子供たちに対する弊害も多く見られるようになっています。さまざまなトラブルを防ぐためには、保護者や教師がこれらの問題や適切な使い方をしっかりと把握し、子供たちに働きかけていかなければなりません。
【デメリット5】「書く力」の低下
タブレット端末などでの学習が主になると、手で何かを書く機会は大幅に減ります。書く力の低下は、自ら考えて表現する「記述力」の低下につながるといわれています。
タッチペンでタブレット端末に書き込める教材を使用したり、紙のテキストや問題集と併用するなど、手で書くことも大切にする学習スタイルを検討すると良いでしょう。
ICT教育の活用事例
ICT教育は、2010年から総務省の主導により試験導入が行われ、現在は文部科学省「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」に沿って学校での導入が進んでいます。小中学校では各教室に1台のPCがある自治体も少なくありません。
日本においては、実際にはどのようにICT教育が活用されているのでしょうか。実際に学校教育で導入され、教育的効果が高く、多くの小学校・中学校・高校で事例をいくつか紹介します。
動きのある動画・板書の限界を超えた説明により、生徒の理解を促す
小学校から高校まで、説明を動画で行ったり、スライドでコマ送りにしたり、いろいろな手段での説明をPC上で行う例が多数見られます。
また、学校での活用に呼応するようにPCでじっくり解き方・考え方などを図やアニメーションを使い、説明する教材も増えています。
こうした立体的な説明方法としてIT機器を利用することは生徒の理解度を上げているようです。
現場の先生方からも「教科書やプリントで伝えづらい動きや音、画像を通してリアルに伝えることができるようだ」「動きのあるものについては板書では理解できていない生徒が多かったが、よく理解できたとする生徒が増えた」といった声が聞かれています。
PC・タブレットをつかった調べもの学習により、語句の意味や、物事の背景を深く知る
PC・タブレットは、使い方さえわかれば、小学校低学年から辞書を使わなくても、言葉の意味を調べることができたり、歴史上の人物についての逸話を調べられるなど、知識を広げる道具として使えます。
「小学校1年生の国語「スイミー」に出てくるからす貝の意味を、実物を提示しながら説明する」(文部科学省:学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議 最終まとめより)などといった実例は、小学校から高校まで多くの学校ですでに行われている取り組みです。
表計算ソフト・グラフ機能を利用してデータを集計し、算数・数学的活動を行う
学校での給食メニュー調査・昆虫観察・ごみの数・スーパーで扱っている野菜の種類の集計、もう少し学年が上がるとアンケート調査と分析など、表計算ソフトを使うと、よりグラフは身近なものとなります。
自分で集計をし、グラフの形に表現することの面白さを知ることができた、調べたことがグラフでわかりやすく表現できたらうれしかった、などのポジティブな感想を持つ子どもも多い活用法です。
より高度な算数知識や、IT知識を身に着けるきっかけとなったなどの効果が見られた例もあります。
そのほか、ストーリーのある動画をクラスで作り、編集してみる、ZoomやGoogle Talkなどを使って遠隔地の学校との交流を深めるなど、アウトプット型のICT教育プログラム例が多く見られます。「板書と挙手」よりも主体的・能動的に児童・生徒が学習をしているとのことです。
世界に目を移すと、ICT教育の事例も様々です。より進んだICT教育を行っているとされるアメリカ・シンガポール・フィンランドでは、教室で普通に1人1台PCを利用しています。
オランダに至っては、学習の進捗管理に専用アプリケーションを利用するのが標準的な教育内容です。これらの国では、PCなどのIT機器はすでに学習の道具であり、ICT教育が教育の標準形となっています。
また、コロナ禍の中、長期間にわたり生徒が登校を禁止されている中、オンライン教育で教育を支えたインドやフィリピンの例など、オンラインを通じたICT教育を標準的な教育としないと、教育がなくなる危機にあった国もあります。
初等・中等教育でも国境を越えて通信教育を受ける生徒も多くなりました。Udemyなどの教育プラットフォームにも、小中学生向けのプログラムが目立っています。
日本でも近い将来、GIGAスクール構想により、1人1台の端末利用も実現される予定です。
しかし、すでにOECD加盟国の中で、IT機器の運用スキルは最低レベルとされている日本では、もう少しICT教育を大胆に進める必要があるかもしれません。「どうすれば効果的」と考えるより、とにかく慣れて使うことの方が重要であるとする識者も多いようです。
まとめ
今回は、ICT教育とIT教育の違い、そしてICT教育のメリットとデメリットについて解説しました。時代の流れに沿っており、メリットの豊富なICT教育を、デメリットに対策を施したうえでぜひ取り入れてみてください。
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